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2012/03/13

特許調査は事前思考が8割 - その4

photo credit: jonas_k via photopin cc
続き物記事です。
  1. 特許調査は事前思考が8割 - その1 / 柳月の三方六
  2. 特許調査は事前思考が8割 - その2 / 出願前調査
  3. 特許調査は事前思考が8割 - その3 / 通常の3倍?
  4. 特許調査は事前思考が8割 - その4 / 侵害予防調査    ← 今ここ。

前回は 「仮説力があると「調べる力」は3倍程度、効率的になる」 というお話でした。

特許調査で立てる仮説、というのは・・・
具体例があった方が、わかりやすいと思うので、

再び 「あのお菓子」 に登場してもらいます★
どーーん!




はい 「来るだろうな・・・」 と思いましたよね? 三方六。


その2 / 出願前調査 で登場した際は、

バウムクーヘンなどの焼き菓子であって、
菓子の表面を、濃淡2色のチョコレートでコーティングしているもの。
を調べる、と定義して、

  • バウムクーヘン
  • 焼き菓子 (菓子)
  • チョコレート
  • コーティング

などの要素を抜き出し、

初速を上げるために (←ここは、私がそう思ってるだけです)

  • コーティング → 被覆、塗布、コート ・・・

といった具合に同義語・類義語を挙げて、試し検索をスタートしました。



で、今回は「侵害予防調査」。

菓子職人さんの所に、ヒアリングに行ったとしまして・・・
「三方六」の由来 などをお聞きしています。

---------------------------------
北海道開拓時代、開墾のための伐採が各地で行われて、まっすぐな木は建築のために、その他は薪に割り、厳しい冬の燃料としました。


木口のサイズ三方が、それぞれ六寸(約18センチ)であったため、「三方六」と呼ばれ、三方六の薪があかあかと燃える裸火の炉の灯を囲んで団らんをし、疲れをいやしたのです。


今に聞かれる「三方六」とは薪の割り方の基準であったのです


それから、百十数年の今日、開拓時代の思い出深い薪の割り方から、白樺の木肌をホワイトチョコとミルクチョコレートで表現した薪の形のお菓子「三方六」が生まれました。
(柳月 Webサイトより)
---------------------------------

「うわっ、割った後で六寸って、当時は巨木が生い茂ってたんですね!?」
などと相の手を入れつつも、脳内は大忙しです。


とりあえず、出発点は出願前調査と一緒。

「三方六、っていうのはバウムクーヘンで、

菓子の表面を、濃淡2色のチョコレートでコーティングして、白樺の薪に似せてるのね。


と定義して、ざっと構成要素に分けます。

  • バウムクーヘン
  • 焼き菓子 (菓子)
  • チョコレート
  • コーティング

次からが、ちょっと違っていて・・・ 「仲間さがし&仮説作り」 をします。



たとえば 「薪に似せたケーキ」 として有名なものに、
ブッシュ・ド・ノエル があります。(フランスの伝統的クリスマスケーキです。)

photo credit: jefferysclark via photopin cc


「三方六と、全然違うじゃーん!」
って思われるかもしれませんが、

「小麦粉、砂糖、卵からなる生地を、円筒形ないし柱状にベイクしてなる焼き菓子と、コーティング用の食品とからなり、前記焼き菓子の表面を前記コーティング用の食品で被覆し、前記コーティング用の食品の表面には、不規則な模様を形成してなることを特徴とする焼き菓子。」
  ※  すみません・・・なんとも下手くそで。「雰囲気」ってことで平にご容赦ください!

・・・って請求項だったら、
三方六もブッシュ・ド・ノエルも、両方入っちゃいますよね?


つまり、侵害予防系の調査をする時って・・・

三方六も、ブッシュドノエルも  「上位概念で」「抽象的に」 表現したら、
どちらも同じ 「円筒形の焼き菓子の表面に、何かを塗って、木に似せた形の食べ物。」

 「チョコレートコーティングした、バウムクーヘン周辺だけ」 では、調査が足りない、って事になります。


じゃあ・・・ブッシュ・ド・ノエルが入るように、ロールケーキも調査する?
でも、ロールケーキだけ気にしていれば、本当に大丈夫?


不安になったところで、仮説思考登場です。
調査範囲は無限にも見えますが、要は 「三方六に似た請求項が潜んでいそうなエリア」を、予測したらいいんですよね?


自分が予測する時の脳内イメージは、だいたいこんな感じです。
※画像クリックで、大きくなります。

似たものを列挙してみるとか、
材料を入れ替えている所は、
いわゆる 「ピラミッドストラクチャー」 です。


それから、多用するのが左上。
「1段階、2段階、と概念を上げて、再び下げる」 方法です。


まずバウムクーヘン→ 焼き菓子 → 小麦粉をベイクした食品、と、抽象度を上げます。
焼き菓子なら、ケーキ、クッキー、パイなどがある。
続いてケーキの種類で、表面にコーティングできそうなのは、スポンジケーキ、シフォンケーキ・・・と考えます。
クッキー、パイなども同様に 「長尺状に作って、薪に似せられるかな?」 と考えます。


他も同じく、
「職人さん、2色がポイントって言ってるけど、他の可能性は?」
「切った形が薪に似てる、って言うけど、切る前はどうなのよ?」


はい、
「うわっ、割った後で六寸って、当時は巨木が生い茂ってたんですね!?」
って相の手まで入れて、話を盛り上げ?ながら
いつも脳内は 「大・ツッコミ大会」 みたいになってます。超いそがしいんです。(爆)


話が一段落する頃、脳内の交通整理にかかります。
そうですねー、三方六だったら、

  • 「ケーキ」類を軸に調べる  ← たぶん本命
  • 「チョコレート」 の切り口で調べる
  • 「食品コーティング (マジパンとか)」 の切り口で調べる
  • 「ケーキ、パンなどの製造用装置」 で、2色コーティングの機械などがないか調べる

・・・この位の方向性、仮説が立てられそうです。
 #「大・ツッコミ大会」しながらも、まとめるんですよ♪

で、菓子職人さんに、疑問点を聞きます。

「そういえばブッシュドノエルも薪ですよね~」 とか
「コーティングって、チョコレート以外に何かありますか?」 とか、
「2色塗り分け、みたいなお菓子って他にもありますよね?」 などなど。

この質問では 「自分の仮説の”確からしさ”」 を確認したり、
仮説が間違ってる、となれば、方向修正を図ったりします。



そして 「ありがとうございました~!」 と 打合せ内容を持ち帰り、検索式を組みます。
こんなイメージ。


クリックで大きくなります。 #「目が痛い」とか言われそう・・・

えー、ここまできたら
仮説に沿って検索式を組むだけ、です。
説明は以上。 (爆)



出願前調査などと比べると、

個々の検索パーツはほぼ同じなんだけど、
並列処理で検索する所が、最大の違いです。(←あくまでも自分の場合)


そして、ひとつの仮説に対して、

  • FI記号でうまく組める?
  • キーワードはどうする?
  • Fタームはこの場面に適合する?

って考えます。
1仮説=1検索、ではなくて、 1仮説=3検索になったりする、って事です。
  # だから時折、長大な検索式ができる場合も・・・(笑)


そして、個々のパーツ(仮説と検索条件のセット)に対して、
「仮説と、特許検索の結果は一致する?」と確認します。

結果が合わなければ、仮説か検索条件を見直すけれど・・・
 「仮説が甘かった」 ってケースが多いかも。(汗)


うん、やっぱり特許調査って
仮説/事前の思考で8割決まるんだ、と思えます。




・・・そういえば!
あの時も、結構な並列検索をしていたっけ。   (もやもや) ←思い出してる音。


4回シリーズの予定だったけど、番外編「第5話」に続かせてくださいね。



「事前思考が8割」シリーズ一覧はこちら








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3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

酒井先生初めまして!
いつも大変勉強になっております。

先生は「並列」で検索式をたてるとのことですが、並列で検索し、和をとるとヒット件数が膨大になってしまいませんか?
私はFタームのみの検索などだと、ヒット件数が増えてしまい、キーワードを積算してしまったりして、並列処理できません。

何かコツがあったらお教え願えないでしょうか。
また、出願前調査の場合、先生は大体、何百件くらいに絞ってからスクリーニングに移られますか?
もし差支えなければご教授お願いいたします。

Smartworks さんのコメント...

おはようございます!

これ、自分の中での話なんですが、
検索式が「レゴ」のブロックみたいな構造なんです。
(ごめんなさい、余計わからなくなったのでは・・・?(汗))

レゴブロックって、さまざまな色・形がありますよね
で、一つ一つは、結構小さくて。

たぶん、私の作る検索式って、
ひとつひとつのパーツが小さいんだと思います。(小集合)

あとはパーツ(各検索条件)の重み付けですね!

「赤い家を作る」だったら、
赤の4×2は、たくさん使いますよね。
それと同じで「重点的に見たい部分」はケチケチせず、件数多めに作ります。

で、最初から「ここは漏れ防止」として作るパーツもあって、
そちらは、なるべく漏れ防止効果が大きく、件数は小さくなるよう作ります。


それから・・・出願前調査。
うーん。技術分野によって違いが出るような気がします。

よくご覧になる分野が決まっていれば、
特許庁の審査官サーチの履歴をいくつか見ると「相場」がわかります。
(JPOサイトの検索実例は件数多めなので、自社出願の検索外注報告を見た方がいいかもしれません)

件数の方は、相場を見て、
通常の国内出願のみなら、相場より下に誘導するとか、
外国出願予定もあれば、少し多め、とか、
情報収集を兼ねて・・・など、こちらもいくつか基準があるかと思います。


抽象的なお答えが多くなってしまいましたが、ご参考にしていただければ幸いです。

匿名 さんのコメント...

酒井先生

ご回答ありがとうございました。
大変参考になりました!
これからも面白い記事を楽しみにしております。